第55回Think-in:2026年6月15日
テーマ:「世界を変えつつあるバイオ最新潮流2026」
ゲスト:宮田 満 (株)宮田総研代表取締役・元日経バイオテク編集長
今回は、広範にわたる医薬品研究開発の最前線のお話を聞くことができました。
当たり前ですが、医薬品開発は単に技術の問題だけではなく、戦略・洞察・決断が重要です。
まず、近年の医薬品開発が「アンサンブル創薬」と呼ばれる新たな段階に入ったことが強調されました。既に有効性が確認された抗体、ペプチド、核酸医薬などのモダリティを組み合わせることで、より高い治療効果を目指す「組み立て産業化」が進んでいる。ADC(抗体薬物複合体)、放射性医薬品、二重・三重特異性抗体、タンパク質分解薬(PROTAC)などがその代表例。
一方で、この分野では中国企業の台頭が著しく、欧米の大手製薬企業による中国発技術の導入が急増している、として、宮田さんは、日本が得意とするはずの「すり合わせ技術」の競争で後れを取りつつあることに危機感を示されました。
プレゼン後半では、近時話題の肥満治療薬GLP-1作動薬の急成長を取り上げ、この薬が単なる減量薬ではなく、糖尿病、心血管疾患、認知症など幅広い疾患への応用が期待される一方で、筋肉量減少という大きな課題も抱えていること。そのため次世代開発では、ミオスタチン阻害による筋肉維持や、冬眠動物の代謝機構を応用した新たな治療法の研究が進んでいるという話がありました。
講演全体を通じて、医薬品開発の中心が「新薬発見」から「既存技術の統合」へ移りつつあること、そして肥満・代謝・老化・認知症を一体の問題として捉える新しい医療観が形成されつつあるという点を指摘されたのが非常に印象的でした。
最後に話された抗老化薬もその延長線上にあり、これを単なる若返り薬としてではなく、健康な身体機能の維持、という視点で捉えることが今後の重要な目標になると展望されていました。
とにかくとても刺激的な一夜でした。
第54回Think-in:2026年5月14日
テーマ:「脳科学のこれまで、今、これから:一研究者から見た景色」
ゲスト:藤田一郎 大阪大学名誉教授、前大阪大学脳情報通信融合研究センター教授
今回は、中高同級生のよしみで、日本の脳科学研究の第一人者の1人に向かって、「『ヒューマニエンス』か『サイエンスゼロ』のノリで、わかりやすい話をお願いします。」という無茶なお願いをしました。
藤田教授は、まず、脳科学の歴史的発展を紹介し、1970年代以降の神経科学の分野の統合、分子生物学、計算理論、機能的MRIなどの技術的進展について、わかりやすく説明されました。
次に、ご自身の専門領域でもある視覚認識の複雑さと多義性の例として、福田繁雄の彫刻作品やカラー交差現象など、実例を使って脳が物体認識や色の解釈においてどのような課題を抱えているかを説明され、さらに、研究者が神経細胞の活動を記録し、視覚情報を符号化する方法について説明し、人工内耳やブレーンマシンインターフェースなどの応用技術が開発されている現状について解説されました。
何れもとても興味深いお話でしたが、藤田教授自身の経験―聴覚を失い、人工中耳を装着することで、今まで気がつかなかった聴覚の持つ空間認知の力を知った、というお話―は、実に感動的なものでした。
討論では、身体と脳の関係、生成A I(人工知能)はどこまで人間の脳に近づきうるのか、A Iの言語学習能力、感情・情動を人間はいかにして獲得したのか等々、文字通り「脳を科学する」議論が展開されました。
相当に刺激的、「アタマをフル回転」させるような議論で、今までにない「別のレベルの知的刺激」を得たThink-inだったように思います。
代表理事が個人的に印象に残ったのは、藤田教授が紹介したある心理学者の言葉、「人は悲しいから涙が出るのではない。涙が出るから悲しい(悲しさを覚える)のだ」でした。感情や情動は脳内で生成されるものですが、実はそれは身体に由来する、という話。ここで説明すると長くなるので、関心のある方はぜひアーカイヴをご覧ください。
第53回Think-in:2026年4月2日
テーマ:「金融政策決定の舞台裏-日本銀行の機能・組織・政策-」
ゲスト:雨宮正佳 前日本銀行副総裁、東京大学金融教育研究センター招聘教授
金融政策という、普段はあまり馴染みのない、というより考える機会のないテーマでしたが、雨宮前副総裁のお話は非常にわかりやすく、日銀の役割と政策決定の実際や、異次元緩和で具体的にどんな政策が実行され、それがどのような結果(効果)をもたらしたのか、そして今、植田体制のもとでどのように「正常化」されようとしているのか、客観的かつ体系的に話していただいたので、会員各位の理解が進んだのではないかと思います。
第二部では、いろいろなテーマが議論になりました。
公定価格である診療報酬や介護報酬、福祉手当など、デフレを脱却しインフレ基調に移行した以上、それに即した価格設定ルールを作るべき、という、ある意味当たり前すぎる議論も出て、それはそれで(笑)盛り上がりました。
そもそも、物価(物の価格)はどうやって決まるか、というのは単純のようで複雑な話です。市場機能だけで決まるわけではない-人々の意識、期待形成(ノルム、という表現をされていました)が絡む、実は非常にhumanなプロセスだということも理解できたのではないでしょうか。
同時に、30年にわたって物価も賃金も(そして金利も)ほとんど動かない、というStaticな世界に生きてきた人々が、持続的に物の価格が上昇する、というインフレ基調の世界になった時、どういう行動変容が起こるのか、日銀は「市場との対話」だけではなく、一般市民の「合理的期待」をどう受け止め、どう働きかけるのか、ということも大きな政策決定要素になるのだ、ということを話されていたように思います。
第52回Think-in:2026年2月26日
テーマ:「プーチンの歴史認識〜隠された意図を読み解く」
ゲスト:上月豊久 前ロシア連邦共和国駐箚日本国特命全権大使、東海大学平和戦略国際研究所所長・国際学部教授
ロシアは日本の隣国でもあります。北方領土問題はじめ、両国間にはさまざまな課題がありますが、日本の平和と安全という観点からは、ロシアとは一定の安定的な関係を維持していくことが求められます。他方で、ロシアは核保有国、核大国であり、4年を
超えたウクライナでの戦闘は終結の見通しは立っていません。
外交官生活45年、うち17年間ロシアに関わり、4回のロシア大使館勤務、8年に及ぶロシア大使在任の経験を持つ上月大使のお話は、ロシアという国、そして指導者プーチン大統領に関する私たちの認識を一段深めてくれるものだったように思います。
ロシアとは敵対しているわけではありませんが、「敵を知り己を知る、百戦危うからず」とも言います。二国間の関係だけでなく、歴史的視点、地政学的視点、マルチの国際関係の視点、幅広い視野から日露関係を考える、第三国の視点からロシアを考える、良いきっかけになったのではないかと思います。
第51回Think-in:2026年1月22日
テーマ:「地域包括ケア時代の病院のあり方について」
ゲスト:鈴木邦彦 医療法人博仁会理事長、一般社団法人在宅療養支援病院連絡協会会長、日本地域包括ケア学会事務局長、前茨城県医師会長
地域包括ケア・地域医療・かかりつけ医機能は三位一体、医療機能の二つのベクトル、垂直連携から水平連携へ、地域共生社会と地域包括ケアの関係など、鈴木先生のお話は包括的でわかりやすく、首肯できるものばかりだったと思います。その中で、日本の病院の7割を占める中小病院が今後担うべき役割、方向性として、医療と介護の連携拠点としての機能、多職種連携、そして在宅医療・在宅療養支援、さらには継続的な健康づくり、地域づくりへの取り組みが重要になる、という明確なメッセージがあったと思います。
第50回Think-in:2025年12月3日
テーマ:「医療先進国としての明るい未来を目指して〜くすり未来塾の挑戦〜」
ゲスト:武田俊彦 一般社団法人医療・医薬総合研究所「薬価流通政策研究会・くすり未来塾」共同代表、元厚生労働省医政局長
薬価問題や医薬品流通問題は、実は非常に複雑な問題を孕んでいます。武田共同代表からは、厚生労働省の現役官僚の時代からこの問題に取り組んできた専門家の視点から、薬価算定方式の歴史的変遷、医薬品流通の現状と課題について、データに基づいた詳細なプレゼンテーションをしていただきました。当日の議論でも指摘しましたが、累次にわたるくすり未来塾の提言は、最近の厚生労働省の政策にも大きな影響を与えています。
第49回Think-in:2025年11月7日
テーマ:「定点観測20年 政治ジャーナリストが見つめた日本の政治」
ゲスト:反町理 元フジテレビジョン取締役解説委員長 BSフジ「プライムニュース」キャスター
反町さんは、政治記者20年の大ベテランです。「プライムニュース」20年の蓄積を生かして、現在でも自身のYouTubeで与野党幹部との一対一の対談をほぼ週2回のペースで発信しています。今回のThink-inでも、安倍晋三政権のメディア戦略、SNSが政治戦略に与えている影響の大きさ、高市政権の高支持率の背景、高市総裁下での自民党の変質、直近の日米首脳会談の舞台裏、維新の政権参加と公明党の連立離脱が政局に与える影響など、「リアルポリティックス」の生々しい情報を聞くことができました。
第48回Think-in:2025年10月23日
テーマ:「円安はいつまで続くのか-為替で世界を読む-」
ゲスト:石川久美子 ソニーフィナンシャルグループ株式会社 金融市場調査部 シニアアナリスト
為替の話は多くの会員にとってあまり馴染みのないテーマだったかもしれませんが、石川さんのお話はとてもわかりやすく、現在の円安の背景やその影響、実需による取引が5%しかない為替市場の特性、プレーヤーたちの行動様式など、特に知識のない非専門家でもよく理解することができたのではないかと思います。
特に最後の章で語られたネット技術の発展とその影響、SNSによる認知の歪み、フィルターバブル、単純接触効果、エコーチェンバー、確証バイアス等々の指摘は、為替市場に限らない現代社会全体に通じる一種の「病理現象」でもあり、あちこちに「実例」のある現象です。
石川さんもおっしゃっていましたが、所詮人間のやることです。為替市場や株式市場から学べることは、いろいろある(笑)と思いました。
第47回Think-in:2025年8月28日
テーマ:「欧米社会から眺めた日本と日本の医療制度-18か国歴訪から見えた課題と展望-」
ゲスト:菅原琢磨 法政大学経済学部経済学科教授
菅原教授のお話は、前半部分が訪問された18カ国から見た日本の印象、後半が医療の話でした。前半での日本の素晴らしさ(治安、衛生、医療、食事、高い規範意識等々)と強いピアプレッシャーやW L Bの悪さ、そして失われた30年を経て世界が遠くなった日本、という感想は、私を含めて在外勤務経験のある参加者の多くが共感するものでした。「人口減少社会をより良き社会変革の好機と捉えたい」という結びも思考できるものでした。
医療制度については、医療に限らず社会制度はその基盤となっているそれぞれの社会の成り立ち、価値観に規定される「経路依存的」なものだ、という視点を強調されると同時に、医師偏在や資源配分、財政制約、高齢化の進行に伴う看取りの問題や薬価の問題など、共通する課題も多くあり、共同で学び合うテーマも多いことを指摘されていました。
第46回Think-in:2025年6月18日
テーマ:「医療機器償還制度について」
ゲスト:印南一路 慶應義塾大学名誉教授・一般財団法人医療経済研究機構副所長
議論の中でもあったように、医薬品(薬価)と異なり、医療機器はあまり世間の関心を呼びませんが、世の中の技術革新の医療への応用、実装という意味では、オープンイノベーションのブルーオーシャンとも言えるSaMDをはじめとする先端医療機器や医療I Tは、臨床現場という意味でも医療提供体制という意味でも、日本の医療を変えていく大きな可能性を秘めています。
今回は、臥龍として初めて医療機器をテーマに取り上げましたが、まだまだ議論すべき論点がたくさん残ったように思います。機会を見てさらに深掘りできる議論を行いたいと思います。
第45回Think-in:2025年5月23日
テーマ:「高齢者の住まいと地域づくり」
ゲスト:武井佐代里 前独立行政法人都市再生機構理事
武井前理事のお話は非常にわかりやすく、住宅行政の視点から高齢者の居住保障、地域づくりをどのように進めてきたか、そして地域包括ケアネットワークの土台を支える「居住」の問題にどのようなソリューションを提供してきたのか、政策的視点、実例双方から解説していただけました。
サ高住をはじめとする「居住系サービス」は今後大きく発展していく分野ですが、同時に様々な課題も明らかになりつつあります。
独居高齢者は今後都市部ばかりでなく地方でも増加していきますが、居住保障はこれまでの高齢者介護行政や社会福祉行政では十分に取り組んでこれなかった分野でもあります。
改めてこの問題を考える良い機会になったのではないかと思います。
第44回Think-in:2025年4月24日
テーマ:「新たな地域医療構想とこれからの包括期/慢性期病院の経営戦略~新たな地域医療構想とかかりつけ医報告制度を見据えて~」
ゲスト:池端幸彦 福井県医師会長/日本慢性期医療協会副会長(医療法人池慶会池端病院理事長・院長)
池端先生のお話は極めて広範で、診療報酬改定から見る今後の入院医療のあり方、在宅医療の評価、リハビリ、栄養、口腔ケア、新設の地域包括医療病棟に込められた政策当局の思いなど、中医協委員からでなければ伺えないお話も交えながら、地域医療構想における医療機関機能の整理。かかりつけ医・かかりつけ医機能、そしてその中での慢性期医療の担う機能・役割について、わかりやすくお話してくださいました。
また、ご自身の病院である池慶会池端病院の活動のご紹介もありました。わずか30床の病院でもここまでのことができる、というのは率直な驚きでした。「連携と協働」の重要さを改めて認識させられたお話でした。
第43回Think-in:2025年3月27日
テーマ:「テクノロジーの貢献によるヘルスケア・未来予想図」
ゲスト:金子達哉 日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員
「IBMはもはやコンピューターは作っていない。ハードの会社からソフトの会社へと変貌し、今はデジタル技術を駆使したソリューションを提供するコンサルティングメインの会社になった」という発言がありました。
金子執行役員のお話はとてもわかりやすく、デジタル技術によって何が可能になるのかを実例を示しながらお話しされましたが、おそらくより大事なことは、今可能になりつつあるソリューションの先に想定できるさらに大きな変革の可能性ではないかと感じました。
人工知能(生成A
I、watsonx)が可能にするであろう未来の医療の姿は、今我々が想像するものを遥かに超えて行く。しかもそのスピードは、これまた我々の想定を超えたものになっていくでしょう。
第42回Think-in:2025年2月25日
テーマ:「くすりの費用対効果評価と価値評価ー理想と現実のはざまー」
ゲスト:五十嵐中 東京大学大学院薬学研究科医療政策・公衆衛生学 特任准教授
「費用対効果」「価値評価」は、医薬品や医療の世界に限った話ではありません。あらゆる商品、サービスについて言える話です。五十嵐准教授のお話にもあったように、「価値」として何を位置つけるのか、それは測定可能(数値化可能)なものなのか、さらにはそれを金銭的価値で測れるものなのか。いろいろ疑問が湧きました。
Big ticket
Little ticketという言葉があります。技術革新が医療費を押し上げるのか、効率化するのか、という意味ですが、このticketが生み出す付加価値を考えることなしに、そのticketの本当の価値は評価できないと思うのは私だけでしょうか。
第41回Think-in:2025年1月21日
テーマ:「必要不可欠な医薬品の安定供給についてー感染症領域ー」
ゲスト:多賀沙代子 Meiji Seika ファルマ株式会社 広報渉外部 広報G長
今回の議論の中で明らかになったように、医薬品の安定供給問題の背景にはさまざまな構造要因があり、根の深い問題です。今回は抗菌薬領域を中心に議論しましたが、後発医薬品、基礎的医薬品、長期収載品、それぞれに異なった問題背景があり、生産・流通過程の課題だけではなく、薬機法上の承認スキーム、薬価算定(改定)ルール、産業構造、原薬調達などサプライチェーン等々、今回のThink-inでは十分尽くされなかった論点が数多く存在しています。
このテーマは健康安全保障に関わる問題です。Think-inで引き続き取り上げていきたいと考えています。
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